明日、恐らく僕は職を失う。
そんな日の夜だった。
どこか気が楽になったような感覚を得つつ、
もうどうにでもなってくれよ、という
自暴自棄にもなっていたんだとは思う。
いつもは血糖値の急上昇を抑えるために、
糖質控えめの食事を心がけてるのだけれど、
コンビニでカレーパンを買って、雨の中夜道を歩いて帰った。
あーあ、って何度も思ったけれど、
感情が遠い僕は、その時に何を考えているのかすら、
あまり分からなかった。
ぼーっと、傘もささずにカレーパンを食べながら歩いていた。
住んでいるアパートに着いたとき、
2階に上がる階段の前に人がいた。
暗くて、よく見えなくて、あれ?お隣さんかな?
って思った。
思った矢先に、突然近づいてきて、傘をさしてくれて、
面を食らって僕は一歩後ずさった。
まさか、僕が、明日職を失うかもしれない、
稼げる身ではなくなるかもしれない、
そんな時に、お付き合いをしている人が来てくれる、
とは想像もしていなかったから、
あ、彼女かもしれない、と気づいた時には本当に驚いた。
とっさに出た言葉は、
「ごめん、そんなに大したことじゃなかったんだ。」
という言葉だった。
Twitterを見て、それで心配してきてくれたんだ、
ってことが分かったけれど、
僕は自分の感情が遠く、自分が何を感じているかも分からなくなっていたから、
自分は大げさに困っていることを表現してしまったのでは?
また、人に心配と迷惑をかけてしまったのでは?
そう不安に思い、とっさに出た言葉だった。
「明日仕事だよね?ごめん大丈夫だから、今帰らないと寝れなくなっちゃうよ?」
そう必死で伝えた。
「迷惑かけてごめん。もう、人の迷惑になりたくない。ごめん。」
と言葉が出てから涙が溢れてしまった。
「迷惑なんかじゃないよ。私を信じて?今20時でしょ?21時になったら帰れば問題ない。電車も調べてあるから。だから大丈夫、安心して。」
そう言ってくれた。
具体的な時間を聞いて、ああ、それなら実際帰ってから彼女も寝れるか、と妙に安心して僕は、
「うん、一度部屋に入ろう。」とそう言った。
そう言って、素直に一緒にいて、早く彼女が帰れるようにしないと、と焦っていたから、そう言った。
入ってからしばらくは、ああ、こうしてるうちにも彼女の寝る時間を奪っている、どうしよう、
という焦りが何よりつよかったのだけれど、
時間は大丈夫だから言ったでしょ、信じて、
と言われて、時計をチラッと僕は見て、
ああ、まだ21時まで時間はあるな、すこし、すこしだけ甘えていいのかな、と思ったら、
もう、嗚咽が出てしまうくらいの涙が出てしまった。
「人に迷惑をかけたくない。どうしてこんなことになっちゃってるのかもう分からない。どんなに頑張ってもこうなっちゃう。
次の仕事先だって決めてから辞める話をしなきゃなのに、いつか一緒に暮らしたいから、次勤めるならいい給料の、休みのあるいい会社に勤めて、お金がないからできない、そんな場面ができる限りないように、そう整えてから、辞めるってことだって決めたかったのに。
かっこよくいたかった。かっこいいて思ってもらえる僕でいたかったのに。」
甘えさせてもらおうかな、て不意に思ってから、涙がもう止まらなくなった。
自分が遠くに感じていて、あれ?そんなに困ってもないし不安にもなってない?そう思っていたはずなのに、
不安も怖さも、安心することでようやく感じることができるようになり、僕は泣いた。
職を明日失う、稼ぐ能力が無くなる、
そんなことに不安を感じ、怖くなり、
みっともない僕を目にしても、彼女は動じないで一緒にいてくれた。
そのことが、僕には何よりの肯定に感じて、
安心感を感じたからか、
ぼやけていた視界がなぜかクリアにはっきりと見えた。
好きだな、とか、もうそんな感覚ではなかった。
この人と、一緒に生きていきたいな、という感覚の方が近い。
そんな風に頭に浮かんでから、でもやっぱり好きだな、と思った。
僕が本当に困った時に、心配して人が来てくれる、
そんな経験を、僕はしたことがなかったから、
ああ、こんな関係が、こんな人と出会えるということが、今回の僕の人生で、あり得たんだな、そんな風に思った。
そんな風に思ったから、それをそのままに伝えた。
いてくれて、よかった。
会えて、よかった。
僕は僕が感じていることをそのままに伝えた。
伝えて、いよいよ安心して、
途端に眠気がきた。
「今日は駅まで送らないでいいから、このまま寝てね。」
そう言ってくれた。
玄関までは送りたかったから、なんとか起きて、
玄関まで送って、
それで、またね、って言った。
僕は、仕事を失っても、また見つけよう、と思った。
なんとかなるかもな、と、なんでかそう思った。
そう思わせてくれた。
ここ1,2週間、ずっと寝れなかったのに、その日は寝ることができた。
ああ、安心をする、って、こういう感覚なんだな。
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